高橋卒論


青年期における居場所の獲得がアイデンティティ形成および孤独感に与える影響

高橋 麗於

 本研究は、大学生における「居場所」の獲得がアイデンティティ形成および孤独感に与える影響を検討した。「居場所」の定義は「安心や落ち着きが得られ、自分の存在や価値を実感するなかで、相互調整できるような重要な他者との関係」とした。居場所の概念に含まれる「相互調整」とは「青年期全般にわたって、他者の欲求や興味を考慮する一方で自分自身を表現したり、葛藤を認識して解決し、あるいは解決できない葛藤があっても他者との結びつきをなお持続することを学び続ける努力(杉村 1998)」とした。重要な他者として「両親」「友人」「恋人」の3 水準を設定し調査を行った。
 本研究には大学生104 名(平均年齢19.41 歳)が参加した。使用尺度は則定(2007)の青年版心理的居場所感尺度から「本来感因子」4 項目、「役割感因子」6 項目、「安心感因子」4 項目を抜粋した。また、「相互調整」の概念を測定するために、相川・藤田(2005)の成人用ソーシャルスキル自己評定尺度から4 項目を抜粋した。選定は、リハビリテーションゼミ所属の13 名に、「相互調整」の概念を測定できると思う項目を18 項目の中から6 項目選ばせて、その中で頻度の多い上位4 項目を相互調整因子として選抜した。アイデンティティの測定には谷(2001)の多次元自我同一性尺度を使用し、孤独感の測定には舛田・田高・臺(2012)の日本語版UCLA 孤独感尺度を使用した。分析として、両親、友人、恋人の居場所感得点、アイデンティティ得点、孤独感得点の分散分析を行った後、各尺度の相関分析を行い、アイデンティティと孤独感を目的変数として居場所間の下位尺度を説明変数とした重回帰分析を行った。
 調査の結果、居場所対象の違いがもたらす影響として、「両親」に居場所を見いだしている人のほうが「友人」よりも高い居場所感を獲得していることが明らかになった。ただし、アイデンティティと孤独感には居場所対象の違いによる影響は見られなかった。この結果から、青年期においても両親との愛着関係は重要な機能をもっていることが明らかになり、愛着対象が「友人」や「恋人」に移行する前の準備段階として「両親」が選ばれている可能性が示唆された。
本研究では「居場所」の下位尺度に「相互調整」の概念を導入し検討を行った。その結果、「相互調整」は孤独感とアイデンティティ形成の一部に相関していることが明らかになった。また、「相互調整」はアイデンティティ尺度の下位尺度のうち「対自的同一性」に有意な影響を与えていることが示唆された。このことから、青年期においてアイデンティティの形成を促す「居場所」の機能として、従来の「居場所」に求められてきた「安心感」や「ありのままでいられる」といった要素の他に、「相互調整」のような他者に対する積極的な姿勢も必要であることが示唆された。
 本研究では青年期においても「両親」との「居場所」が重要な心理的機能を持っていることが明らかになったが、今回の研究では父親と母親を一括りにして「両親」としたため、性差の検討をすることができなかった。また、本研究の参加者には青年期前期にあたる大学11、22年生が多く、青年期後期との差を検討することができなかった。よって、今後は父親、母親それぞれが居場所に与える機能を明らかにすると共に、青年期前期、後期の差を検討することで、それぞれの時期における「居場所」に必要な要素を明らかにすることができるだろう。