伊藤修論


大学生を対象とした抑うつと情動に関する検討
ー主観的報告と客観的評価の違いの観点からー

伊藤夏野

 うつ病の評価については言語的な情報だけでは限界があり、笑顔と抑うつ度など非言語的スキルとの関連が示されている(Fiquer, Boggio, & Gorenstein, 2013)。非言語的スキルの中でも周囲が気づける表情からの評価が重要だと考えられ、Berenbaum & Oltmanns (1992)ではうつ病における主観的報告と表情表出に有意な差があることを示しているが、感情の多次元的評価が課題とされている。本研究では大学生を対象に、楽しさ喚起場面における基本6情動についての主観的情動評定と他者に表情から評定させる客観的情動評定において、抑うつ度による違いがあるのか検討することを目的とした。
 抑うつ度による主観的情動評定と客観的情動評定の違いを検討したところ有意な差は見られなかったが、抑うつ度が高い群では楽しさの程度において主観的報告と表情から評価される程度が近いことが示され、ネガティブな情動の中では怒りのみ主観的に感じている程度が強くなると表情から感じられる程度も強くなるとの結果であった。
 本研究で抑うつ度による主観的情動評定と客観的情動評定の違いが示されなかった要因として、客観的情動評定の一致率の低さが考えられる。今後は客観的情動評定の一致率を高める工夫を行うことや、楽しさ場面に限らず怒りなどネガティブな情動を喚起させる場面においても検討を行うことが必要である。