越地卒論


音楽聴取後の感情に影響を及ぼす要因についての検討 

越地彩

 本研究では、音楽聴取前の感情と音楽の感情価のどちらが音楽聴取後の感情に影響をもたらすのかを、谷口(1995)の音楽の感情価測定尺度(AVSM)と寺崎他(1991)の多面的感情状態尺度・短縮版(MMS)を用いて、検討した。また、曲の好みが音楽聴取後の感情状態に影響を与えるのかも検討した。参加者は、正常な聴覚を有する大学生20名(女性14名、男性6名)であった。参加者には、音楽聴取前のMMS短縮版、音楽聴取、AVSMとMMS短縮版という順で合計5曲分実験を行った。
音楽の感情価についての検討では、作品ごとにどんな印象を感じたかを検討するために、被験者内一要因の分散分析を行った。その結果、作品1は親和的な曲、作品2は高揚的な曲、作品3は親和的な曲、作品4は荘重的な曲、作品5は高揚的な曲だとわかった。谷口(1995)と比較すると、5曲全てにおいて同じ印象を持っていた。このことから、谷口(1995)の作成したAVSMの安定性が確認できたと示唆される。
 音楽聴取前と聴取後の感情の変化についての検討では、MMS短縮版の下位尺度それぞれについて、作品ごとにどのような感情変化をするか検討するために、8尺度すべて被験者内一要因の分散分析を行った。その結果、抑鬱・不安の感情は作品1,2,3,5聴取後に低下した。倦怠は作品2聴取後に低下した。活動的快は作品2,5聴取後に増加し、作品4聴取後に低下した。非活動的快は作品4聴取後に低下した。親和は作品1,3聴取後に増加した。集中は作品1聴取後に増加した。このことから、作品1は抑鬱・不安感情が低下し、親和と集中の感情が増加することがわかった。作品2は抑鬱・不安と倦怠の感情が低下し、活動的快が増加することがわかった。作品3は抑鬱・不安感情が低下し、親和の感情が増加することがわかった。作品4は活動的快と非活動的な感情が低下することがわかった。作品5は抑鬱・不安感情が低下し、活動的快な感情が増加することがわかった。同じ感情価を持つ音楽だと、喚起される感情は増加する感情と低下する感情ともに、共通するものがあった。
 5つの作品のAVSMとMMS短縮版の相関の検討では、何の感情価を持っているとどんな感情に変化があるのかを検討するために、5つの音楽作品について、それぞれPearsonの積率相関係数を求めた。その結果、5つの作品すべてでAVSMの親和と非活動的快に正の相関がみられた。このことから、親和的な作品(優しい、おだやかな、恋しい)だと感じるほど非活動的快(のんびりした、おっとりした、ゆっくりしたなど)な気分が増加することが示された。
 曲の好嫌に関して、被験者内一要因の分散分析を行った。その結果、作品4が作品1,2,3,5と比較して、有意に低いことがわかった。このことから、作品4はあまり好まれず、一つだけネガティブな曲だと感じていることが示された。