竹内修論


顔と名前の記銘に関する研究

竹内愛彩

 本研究では、顔と名前を記銘する際に、印象評定を行うこと、さらに、簡易的なエラーレスラーニング法を使用することで、顔と名前の記銘の際の心理的な負担感を軽減する効果が認められるか検討することを目的として実験を行った。
 実験群はランダムに、印象あり簡易エラーレスラーニング法あり群、印象あり簡易エラーレスラーニング法なし群、印象なし簡易エラーレスラーニング法あり群、印象なし簡易エラーレスラーニング法なし群に振り分けられた。
 実験は対面とオンラインで行われた。いずれの場合も研究参加への同意の確認、質問紙への回答および実験はクアルトリクスを使用した。最初に対提示課題が5秒間画面上に提示され、印象評定ありの場合には、提示された顔刺激について、印象を評定した。印象評定なしの場合には、顔刺激の印象を評定する選択肢は提示されなかった。続けて、画面上に表示される妨害課題を行った。その後、自由再生課題が提示され、呈示された顔刺激の名字を自由再生で回答欄にキーボードで入力した。回答後、簡易エラーレスラーニング法ありの場合には、誤答の場合には、正答が表示された。簡易エラーレスラーニング法なしの場合には、正答は表示されなかった。最後に参加者は、心理的負担感測定質問紙への回答を行った。さらに、一週間後に、参加者は対面とオンラインでクアルトリクスを使用した実験に参加した。参加者は、顔刺激の呈示順序をランダムに変えた自由再生課題が提示され、提示された顔刺激の名字を自由再生で回答欄にキーボードで入力した。その後、心理的負担感測定質問紙・相貌失認尺度の質問項目が画面上に提示され、回答を行った。
 その結果、印象評定を実施することで、1週間後も顔と名前の記銘を維持できる可能性が示唆された。
簡易エラーレスラーニング法条件における心理的負担感に違いはなかった。また、正答数も違いはなかった。正答数において、本研究では、統計的な有意差は認められなかったが、実験条件を変えた4群における直後と1週間後の自由再生の正答数を示した図9から、印象評定と簡易エラーレスラーニング法を組み合わせて課題を行うことで、1週間後まで顔と名前に関する記憶が定着する可能性が示唆される。
 心理的負担感において、本研究では、簡易エラーレスラーニング法の使用の有無に差が認められなかった。本研究からは、簡易エラーレスラーニング法は健康な大学生においては、大きな影響を与えないのではないかということが示唆された。高次脳機能障害者の感じている負担感と健康な大学生の感じている負担感は違う可能性があり、高次脳機能障害者へ簡易エラーレスラーニング法を実施した際にはBier(2008)と同様の結果が得られる可能性もあるため、今後の検討が必要である。
 印象評定を実施することによって、“記憶課題に対する負担感”の項目について差が得られなかった。しかし、本研究においても、顔の記銘をすることに関しては、印象評定をすることによって困難と感じにくくなることが明らかとなった。
 相貌失認尺度について、本実験では、個人の顔の記銘力を測定し、個人差についての検討のみ行ったが、今後顔の記銘力が高い群、低い群に分けて比較し、印象評定の有用性や負担感の違いを検討することで、個人の能力に合わせたリハビリテーションに生かしていくことができるのではないかと考えられる。
心理的負担感測定質問紙について、質問項目で参加したこの課題と限定することで、実験参加者が参加した課題に対しての負担感を回答することができたのではないかと考えられる。
 簡易エラーレスラーニング法の効果について、本研究では、認められなかった。図9では、印象評定あり簡易エラーレスラーニング法あり群のみ平均正答数の変化を示す直線の傾きの正負が異なる。本研究の実験参加者の人数が少なかったため、差が得られなかった可能性が考えられ、印象評定と簡易エラーレスラーニング法を組み合わせて課題を行うことで、正答数が上がる可能性が示唆される。