嶺岸卒論


感情表出の制御と感情知能および孤独感の関連の検討 

嶺岸千聖

 本研究では、感情表出の制御、感情知能、孤独感における「共感可能性(以下:LSO-U)」「個別性への気づき(以下:LSO-E)」の関連について検討すること、孤独感の対他的次元である「LSO-U」と対自的次元の「LSO-E」が青年期の感情表出の制御のどのような傾向を示すかを検討することを目的とした。
大学生および大学院生92名が参加し、新版感情表出の制御尺度、大学生版エモーショナル・インテリジェンス尺度、孤独感類型判別尺度LSOの回答を求めた。感情表出の制御、感情知能、孤独感の関連について検討するとともに、孤独感の2つの次元から分類された集団によって感情表出の傾向があるか検討を行った。
その結果、感情知能得点と「LSO-U」の間に有意な正の相関が見られ、感情知能が高い傾向である人は、他者を理解し、他者と共感できると感じやすいことが確認された。人と共感できると思うほど孤独感を感じにくくなることから、感情知能が孤独感の低減させる機能を持つと示唆される。さらに、「主体的関与と自己感情の理解・表現」「ネガティブ感情の処理」が「LSO-U」の高さに影響することが示唆された。したがって、問題解決のために前向きに行動したり、自己の感情を表現したり見つめる能力と、ネガティブな感情に対して適切に対処する能力が他者との共感可能性を高めることにつながると考える。また、「LSO-U」「LSO-E」の得点から判別した集団の感情表出の傾向について、「非仲間志向的感情表出の制御」に有意差があり「自閉的孤立」グループと「客観的孤立」グループに有意傾向がみられた。相手との関係構築のために感情表出の制御を用いるのではなく、自分が不利益になる結果を避けるために行っていると考える。
 本研究の結果から、感情知能の高さは他者との共感可能性に関連すること、感情知能の機能である「主体的関与と自己感情の理解・表現」「ネガティブ感情の処理」が他者との共感可能性の向上に影響すること、そして孤独感の対他的および対自的側面から群分けされた3つの集団のなかで、他者と隔絶した人間関係を望む集団は「非仲間志向的感情表出の制御」を行う傾向が確認された。本研究では「LSO-U」「LSO-E」の得点から群分けを行ったが、LSOの類型判別をもとに参加者を分け、タイプごとの傾向と対人関係上の問題を提起する必要がある。また、対人関係における孤独を低減させるアプローチや、自己への思いやりの側面から感情知能との関連も今後検討してくことも必要であると考える。