平成19111更新 専修大学文学部人文学科哲学人間学専攻 選択必修科目


西洋哲学史(近代)2006年度 水曜4時限(14:40~16:10 船木


後期試験解答例(1/10

速報!前期試験の結果について(希望者には救済のための課題を出していますので末尾まで読んでください)

 

 T 正解

文章

著者名

書名

正答率

A

ロック

統治論

60%

B

トマス・モア

ユートピア

52%

C

マキアヴェリ

君主論

45%

  全問正解者(文脈問題は別)・・・18名(25%

 

 U 採点基準

11点(○)

哲学的問題の所在が分かっていると思われるひと(12名)

 8点(△)

思想史的文脈が分かっていると思われるひと

 5点(△)

国語的文脈から自分の意見を述べたひと

 2点(△)

3分の2以上書いたが、上記に当てはまらないひと

 0点(×)

3分の2の量を満たしていないひと

 

  正解(11点)とした答案の例(これらの答案を書いたひとで、掲載を希望しないひとは申し出てください)

 

・一方が良者ならばもう一方は悪であったり、幸せや不幸は人間の意志で成り立っているものではないだろうか。生きてゆく上で白か黒かをはっきり分けなくてはならない。「どっちでもない」ということはあり得ないと思う。白が正しいか黒が正しいかを決めるのは法であったり、昔で言うと神であったり。戦争は正しいことなのか、戦いが起こって人々が利益を得ることもあるかもしれない。自分自身がプラスになることであればそれが正しいことになる、と自分なりに解釈するのが人間なのだろうか。しかし、人間の意志だけではどうにもならないこともある。そこで法が出てくるのだ。だから、今現在でも法は人間の近くにあるのだと思う。

 

・この3つに共通する問題は人々の平等についてだと思う。人々がみな平等というのは確かなはずなのに、やはりトマス・モアのユートピアのように、みんながみんな平等に幸せになれないという考えが現実である。本当の人々の平等はまだ実現されていないようにも思える。社会が君主によってうまく統制されても、どこかに不平等が生まれるし、自然法によって人は平等と定められていて、戦争をどんな言葉をつくして正当化しても、人は平等に戦っていない。結局、人間は自分の利益が大事だから、本当の平等は言葉だけだと思う。平等な幸せが実現してこそ、本当に平等な世界なのだろう。しかし、それはやはりユートピアにすぎないのが悲しい。

 

ABC、それぞれの共通点は、みんな平和がいいということである。ロックの統治論では、処罰権を放棄してでも、所有物や身の安全を守りたいし、トマス・モアのユートピアでは、やりたいと思わなければけっして起きない戦争、ホッブズのリヴァイアサンでは、平和のためなら自由を差しだすといっている。だから共通にしているのは、平和である。ただし、自らに害がおよばないかぎりである。共通している平和・・・。戦争するか、しないか、も人間の理性によってである。だから戦争するか、しないか、は人間が選択できるのである。いつでも平和を選べるということは逆にすぐに戦争も選べるということだ。でもそれだと、いつまでたっても相手が負けを認めないかぎり戦争は続くと思う。それは暴力の連鎖になってしまうと思う。すぐに平和も戦争も選べるけれど、それは重要な選択である。

 

ABCに共通に述べていることは、「人間はどのようなものか」である。Aは人間は理性を持っているから、神の導きによって善い行いをする存在であるとし、Bは人間は争いを起こすものとし、Cはどちらかといえば、人を外見だけで判断したり、見下したりするとしている。このように三者三様の人間観を持っていることから「人間とはどのようなものか」なりたたないような気がしてくる。なぜなら「人間」は様々な一面も持っているからそれを断定するのは早いと思うからである。しかし、国家というマクロな視点を考えるときに一人一人の人間性を確かめていたらきりがないのでABCのような人間観を持つのは分かる気がする。

 

・(1)争いに関すること、また人間はそれについてどういう態度をとり、どうあるべきかを論じている。基本的に争うことは否定されており、人間らしくない行動とされている。ACで、人間は法に従うべきであるとされ、野獣とは別のものであり、Bでは、争うことは利益にならないとされている。しかし、Cにある通り、かりに争わなくてはならない場合に力は必要なものでもあるとされている。ここに人間と法の矛盾があるのではないだろうか。(2Bに書かれているには、それを望まなければ、けっして戦争は生まれないとされているが、本当にそうなのかは難しいように思う。不本意な事故が争いに発展することもあるだろうし、何より「あなたがやりたい」の「あなた」とは、本当に個人を指すのか、社会の影響はないのかという疑問がある。しかし、ここに書かれていることは、人間が理想とするものであろうことは確かだと思う。

 

・問Tの各文章で三者が述べていることの共通の問題は、国家は統治の為には、共通の価値観をもたない人間は排除してよいという考え方である。たしかに国の権力者が良い悪いを決めてしまって民衆がそれに従うという考え方は一見シンプルで実行しやすいように思える。しかし、一方向の見解で善悪を決めるのは大変危険なことである。たとえば、人間は理性的でなければ獣と同じだという考え方はそもそも近代的な行動をする人のことを理性的と呼ぶだけで、その判断は文化の発達した地域の一方向のものである。無論、文化度の低い地域の人々や、近代的な思考をもたない人を理性的でないといえる客観的な指標などないのである。つまり、いってしまえば、このような考え方は権力をもった人のもたざる人への差別でしかないと思う。だから僕は、統治より各個人の権利や自由が先に尊重されるべきだと思う。

 

得点分布(平均点は23.67):ピークが二つできました。講義に出ているグループとそうでないグループなのでしょうか。

得点範囲

百分率

46-50

5.4%

41-45

6.8%

36-40

8.2%

31-35

15.0%

26-30

11.0%

21-25

8.2%

16-20

16.4%

11-15

11.0%

6-10

2.7%

0-5

13.7%

救済策:希望者のみ

つぎの課題を後期授業開始日(9/27)に提出したひとには、まともなレポートであれば25点を試験の点数の代わりに与えます。

ナイジェル・ウォーバートン著『入門 哲学の名著』(ナカニシヤ出版)の第3章(デカルト)〜第14章(J.S.ミル)のうちから関心のある章を一つ選んで読み、その対象となっている哲学書も読んだうえで、2400字以上のレポートを書いてください。レポートの書き方としては、『入門 哲学の名著』で指摘されている問題点について、哲学者の考えと自分の考えを対比するなど。


アンケートから

感想:

・分かりやすい方だと思います。

・マキアヴェリは面白かった。昔の哲学者はこういうことを考えていたのかと興味を持てる。

・プリントを読むのが早すぎる。

・いろいろな哲学者の文献がもらえていい。

・授業にあった本の紹介もしてほしい。

・講義のレジュメを出していただければな、と思います。

・プリントを3回もらえるのでありがたいです。

・プリントは2回でいいのでは。

・教室が広くなってよかった。

・私語が少ないこの環境は集中できる。この授業の雰囲気が好きです。

・うとうとしているとついていくのが大変だ。

・哲学というとどうも難しそうだという考えが変わってきたような気がする。

HPは講義に出ていれば必要ないのでは?

質問:

・テスト対策として、文献説明のときどう受講すればいいのでしょうか?è文章の流れを思想史の流れに結びつけるという意識をもってください。

・ダンテのいう「普遍的市民共同体」って何ですか?è講義で。

・授業で読んだ文献について、本を全部読んでみた方がいいのでしょうか?èそれをやってくれるとすごい。チャレンジしてください。

・先生はなぜ哲学を勉強しようと思ったのですか?è講義で。

・ダンテの「神は自分の似姿を自然のなかに入れた」という考えは、神は自分の似姿として人間を創ったことと対立しているのでは?è講義で

・秘密のページの答えが知りたいですèそれは秘密なので・・・


受講者へのお知らせ

・試験等の情報は、講義中に伝えます。3回にわたってお話しますので、3回連続して休むことのないようにしてください。

・前期と後期の末に1回ずつ試験をします(各50点満点)。成績は試験の合計点(100点満点)です。夏休みレポートは、今年は課しません。

・出席は取りませんが、たまにアンケートをかねて出席調査をします。これに回答していれば、成績のきわどいひとにはいいことが起こるかもしれません。

・講義中にプリントを配布しています。3回にわたってのみ配りますので、3回連続して休むことのないようにしてください。プリントは試験に関係があります。

・就職活動などで毎回出席できない状況にあるひとで試験に自信のないひとは、必ず事前に相談してください。試験のあとになってでは、特別の処遇はできません。

講義レジュメは配りません。板書も最低限しかしません。講義を聴かなくなる傾向があるからです。しっかりノートを取ってください。学問は「問い」を学ぶのですから、結論を書き取るのではなく問いを発しながら整理するためにノートを取ってください。復習のためというよりも、聞いている瞬間に何が主題かを自分で確認するためです。それによって、ひとの話を自分で纏めるというスキルを身につければ、就職したあとも役立ちます。

・講義もある種のコミュニケーションです。講義中に教室から出ていくひと、飲食するひと、おしゃべりするひと、メールするひとがいたら、講義する側も話しに集中することが難しくなります。ほかの受講者にとっても迷惑ですから、慎んでください。


推薦図書:ナイジェル・ウォーバートン『入門 哲学の名著』ナカニシヤ出版―――講義でテキストを読んで、実際に本を読んでみたくなったひとは、これを読んでどんな哲学者のどんな本があるか参考にしてください。


これまで配布したプリント(68日現在:6月末まで掲示します)

(1)「目次(講義予定表)」および「はじめに(レジュメ)」

(2) 2005年度試験問題

(3)「イタリア・ルネサンス年表」および「フィレンツェ年表」

(4)ダンテ『帝政論』

(5)マキアヴェリ『君主論』

(6)トマス・モア『ユートピア』

(7)ホッブズ『リヴァイアサン』

(8)ロック『統治論』


講義予定表〔目次〕

はじめに―――なぜ近代西洋哲学史を勉強した方がいいか

1) 近代化と「発明された近代」

2) 哲学の歴史と歴史哲学

3) 哲学を学びたいひとに

第一章 ルネサンスから近代社会へ

1. ルネサンスrenaissance13C16C

1) 芸術から時代へ

2) 世界と人間の発見

3) 普遍人

2. 人文主義humanismと政治哲学

1) 人文主義(ユマニスム)

2) ダンテ『帝政論 De Monarchia』(1310-12

3) マキアヴェリ『君主論 Il Principe』(1513

3. 近代国家観の成立

1) 近代ユートピア思想

2) ホッブズ『リヴァイアサン』(1651

3) 自然法思想

第二章 宗教改革から自然科学へ

1. 宗教改革reformationと懐疑主義

1) ルターとエラスムスの論争

2) 信仰規準(真理標識)論争                      !この節を現在講義中!

3) セクストス・エンペイリコス『ピュロン哲学の概要』

2. 懐疑主義の征服者

1) モンテーニュ『エセー』(1580

2) デカルト:近代哲学の父

3) パスカル

3. 自然科学の成立と脱魔術化

1) 反スコラ哲学的自然哲学

2) フランシス・ベーコン『ノヴム・オルガヌム』(1602

3) ガリレオからニュートンまで

第三章 認識論と理性の時代

1. デカルト主義とその批判

1) スピノザ

2) ライプニッツ         

3) ロック

2. 歴史学の成立

1) ベイルとヴィーコ

2) ヴォルテールとヒューム

3) 進歩する歴史(コンドルセ)

3. 啓蒙思想

1) モーペルチュイとヴォルテール

2) 百科全書派

3) コンディヤック

第四章 科学と人間

1. 自由

1) ロック『統治論』(1689

2) ルソー『社会契約論』

3) JS・ミル『自由論』

2. 観念論哲学

1) マルブランシュからバークリ

2) ヒュームからカント

3) 観念論のその後

3. 社会科学の成立

1) 法学(ベンタムとJS・ミル)

2) 経済学(アダム=スミスとマルクス)

3) 社会学(コントとスペンサー)

第五章 近代の総括から反近代へ

1. 講壇哲学

1) フィヒテとシェリング

2) ヘーゲル

3) 新カント派

2. 生の哲学

1) ショーペンハウワー

2) ニーチェ

3) ベルクソン

3. 現代哲学の先駆者たち

1) プラグマティズム(パースとジェイムズ)

2) 現象学(フッサール)

3) 精神分析(フロイト)

 


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