T.『貨幣:暴力と信頼の間』の性格(まえがきより)
1.出版の背景について
@本書の源泉は『貨幣の暴力』(初版1982年,改訂版1984年);貨幣・金融における模倣衝動
(mimetisme)についてのテーゼ→今日でも妥当,重要性増してすらいる。
A金融についてはともかく,貨幣についての議論は旧態依然(道具的観念の支配);ユーロ→
「貨幣とは何か」「それが持続的に受領される条件は何か」改めて問う。
B『主権貨幣』(1998年)→負債・信認・主権について新たな省察;新アプローチ(信認論)
と旧テーゼ(模倣仮説による貨幣分析)の関係が問われる。
C当初は,『貨幣の暴力』の改訂版に向けて作業→計画の非現実性明らかに→全くオリジナルな
本を構想;模倣仮説への新しい表現,信認と主権の関係,近年の通貨進化の分析,を提示。
2.本書の目標
@理論……「信認(or信頼)的紐帯」という特殊な紐帯の分析を企てる;「信認なしに貨幣なし」。
A歴史……貨幣史の新しい読み方を提示:(1)抽象化(abstraction)の進行(金属との断絶→貨幣
=自己言及的コンベンション),(2)調整(regulation)の諸形態は2形態(集権化centralisation
と分裂化fractionnement)の間を揺れ動く。
B金融政策の目標……目標=信認の維持;しかし,名目アンカー・インフレ阻止だけが要求される
のではない。
U.貨幣と商品に関する模倣仮説(第T・U章より)
1.価値論批判のモチーフ
・交換に先立って主体=主権を仮定(効用価値説)……完全な序列もった個人的選好表,
最適化求める欲望の同質性。
・価値論における社会性……交換関係を基礎づける社会的実体(個人の選択の同質性,経済物
に含まれる労働時間)が実際の交換に先立って存在;社会性は「他者に対する関係」としては定義
されない。
・価値論は制度(その最初のもの=貨幣)をとらえられない……「貨幣は,特殊な経済主体たちを
生成させる。なぜなら,彼らにおいて貨幣は根本的に差異あるものであるからだ。貨幣の媒介
(mediation)を通じて,諸主体は,彼らではないものとの関係,制度という社会的なものとの関係を
保つ」(p19)。
・求められる方法の転換……市場(marchand)社会の社会化プロセスに注意を払う;ie.交換を
社会化プロセスとして把握する;これにより貨幣の理論的定義が可能になる。
2.正統派経済学の交換表象について
・3つの仮定:
@ノマンクラチュール(nomenclature)の仮定(=交換される財のリストを事前に
定義しうる可能性)……理論的機能:使用価値生産の調整的役割(新しい生活様式をともなう
新商品の創発)を無視(社会的世界の外に放逐)し,価格決定のみに焦点を当てる。
A安定した,他の個人から独立した選好の序列を公準化……社会的承認を渇望する
ことのない,他人に無関心な「ホモ・エコノミクス(ワルラス的個人)」;商品を独りで消費す
ることだけが彼には重要。
B効用逓減の原理……慎ましやかな禁欲的個人のユートピア(→個人主義が勝利を収
めた世界);「他者との絆が不確実な中で生きる,競争的闘争を演じる現代人」(p22)ではない。
・一般均衡の安定:
・以上の仮定が描き出す世界=「社会的紐帯が既にしっかりと織り上げられている
世界:商品は与えられており,プレーヤー全員に完全に知られており,彼らのいずれもが「ど
れだけに値するか」を知っており,それを過度には欲せず,これを増やしあれを減らすという
合理的裁定を行う旨を表明している」
・一般均衡とは,このような世界で「かくあるべし」が起きただけのこと(3仮説
からの自動的帰結)。
・制度的枠組の構造化が必要だが,それは無視される(cf.集権的計画もレッセ・
フェ―ルもアナーキーをもたらす)。
・貨幣的諸現象の理解との関係:
・交換のロジックには貨幣の需要入らない;貨幣の役割は交換容易化に限定される。
・本書の視角……主体の独立性・主権性をもたらすのは社会の貨幣化:「個人が他者との関係
に入るのは,貨幣の仲介による商品売買の機会のみである」(p24);∴新古典派が公準として
いるものは,説明を要する:
ex.「使用価値が生産される仕方,個人の欲望,経済主体の独立性」
・本書の議論→市場社会形成の中心プロセスをなすところの貨幣の出現のみ
を問題にする。
3.商品関係(rapport marchand)と商品の性質
・交換=商品交換とは限らない
……3つの交換のロジックあり:互酬(=贈与交換),再分配,商品交換(K.Polanyi);
商品交換に向かう自明の傾向はなし。
・商品関係の特異性:
原始社会の交換 |
商品交換 |
交換される物は,元の所有者との結びつきを離れることがない(∴客体ではな
い)。物の授受は魂の授受である。 | 商品は,売買する個人から根本的に解き放
たれているから,匿名的であり自由に移転可能である。 |
交換の特性は,「贈与に対する贈与」であり,与えられた物には義務(返済の
義務)が付着している。 | ひとたび交換が実行されてしまえば,諸個人は借りを
負わなくなる:いかなる義務も維持されることはない。 |
交換物は,人格の社会的アイデンティティ(出自,地位)を定義する役割を果た
す。その保有は集団の尊敬を得させてくれる。 | 交換は,関与する諸個人の効用
を増加させることを目指して行われる。 |
・上の諸属性→理念的な商品関係を定義:
・「純粋な物」への転換が前提……「商品」の生成:商品とはすなわち,「不活性で匿名的,効用
に捧げられた,自由に移転可能な(固有の属性を与えられているので),それを扱う諸個人および
彼らの社会的地位から独立な物」
・商品への関係……「厳密に私的な関係,商品と当該個人の間の純粋な差し向かい」(p43);他
者の選択は価格を通じてのみ関与;他者との関係は消滅し,物との関係に席を譲る。
・人間同士の関係……「交換者は互いには決して語り合わず,互いに接触することすらしない:
人間の間の唯一の媒介は商品であり,この媒介がすべての社会的実体を吸収している。人間の間の
直接的関係は完全に表面的なものになる」(p44)。
・商品関係の諸限界:
・社会関係の緊密なネットワークから「交換されるもの」を引き出す暴力的プロセス(p46-47):
ex.囲い込み運動→多様な人格的従属の紐帯である土地という媒体を破壊。
ex.新商品(自動車,電話)も旧社会関係を再定義する;人の胚の自由処分→心理的アイデンティティ,家族的帰属の問題を提起。
・商品化がその人為的性質によって成功しないケース……@外部性,A「擬制商品」(p47-49)。
・商品的個人主義(p49-51):
・商品経済と個人主義的諸価値との特別な結びつき(前者が後者を媒介)→商品的ロジックの拡張力
を説明。
・対物関係(relation aux objets)の優位……個人主義イデオロギーの最も本質的な特性;社会
が課してきた義務からの解放への意志の表われ(個人主義的自由);対他者関係への警戒と対物
関係の選好(隣人に頼るよりも貯蔵物に頼る);こうした思想は,経済学が体系的に述べてきた
もの。
・分離(separation)(p51-53):
・パラドクス的な社会関係……「他者との分離」へと専ら向かう傾向→他者アレルギー(社会生
活ないし連帯を隷属とみなす)へ。
・この商品的個人主義を理解するために→経済的債務の個人主義的レジームを考察……自発的に
契約された以外の債務は存在せず,手段さえあればいつでもそれから解放されうるという債務観
→「社会は個人に影響をもたず,どんな特殊な権力ももたない」ことになる。
・「生の負債」仮説(←全体論的社会の研究)における社会……「社会は,個人の存在に基礎を与
えるところの権利と義務のネットワークのうちに,個人を把捉している」;債務(本源的債務)
は「良き生活」を定義し,返済の終わりがないことは「共同体の永続性」を表現している;返済
の免除は,社会的紐帯からの断絶を意味。
・本源的債務から経済的債務への移行……貨幣(→市場的個人を債務から解放させる)が媒介と
なる;人格的紐帯を除去された個人は,全能の夢へ駆り立てられる→技術のみが限界とみなされ
るようになる。
4.貨幣についての論理的仮説
・分離(という社会的事実)の諸特性(p59-63):
・分離の基本的次元=社会の根本的不透明性と予見不可能性→「不確実性」という言葉に集約。
・不確実性の破壊的効果……伝統社会においては親・隣人・近所の連帯があったので,不運な場合に
は他人の支援を動員することが誰にもできた。このようなリスクに対する保証(assurance)のメカ
ニズムがない市場社会では,不確実性の破壊的効果が大:
・個人には稀少性の法則が課される……稀少性は自然的条件ではなく,特殊な組織化(organisation)
形態(→各人の生存を物獲得の能力のみに依存させる)。
・経済学における「確率主義仮説」(不確実性を確率計算可能な「リスク」に還元)……そこでは,
「各個人が他者の行動に気を配る必要がなくなる:潜在的なランダム性の知識だけで十分である」。
個人の間を分離させるロジックである点,ノマンクラチュールの仮説と同じ機能。
・保護の要求(社会的欲求としての)(p64-66)
・不確実性の破壊的効果→保護の要求:
分離→不確実性・不透明性→排除の脅威を(一時的に)払い除けようとする要求
[=保護(protection),保証(assurance),安全(securite)の要求]
・保護の要求は何に訴えられるか?……特殊な商品の購入・蓄積では満たされない要求;要求は
市場集団そのものie.市場社会に向けられる。ここで社会とは,「諸個人の保護要求に対応する
ことのできる特殊な力をもった,自律した機関(entite)」。この社会の機能は,(すべてが商品
で満たされる)新ワルラス理論にはない。
・貨幣の必然性について……保護要求に応える社会の積極的プレゼンスは多様な形態(法,伝統的
連帯,国家)をとる。市場社会におけるその特殊な形態が貨幣。商品的分離は貨幣なしには存在し
えない(商品関係=貨幣的関係)。ただし,その解明に際しては,「物の(objectal)関係を離れ
ること」が必要(D.Patinkinとの違い);ie.主権の機能を考慮。
・富と流動性(p66-74)
・富(richesse)とは?……「富」=保護の要求がとる「物の欲望の特殊形態」。匿名性・移転可
能性のロジックが尊重される。しかし,単なる物の関係の延長ではない;出現するであろう多様な
状況に応じて,不特定多数の要求(保有者が必要だと判断するもの)を満たさねばならない。
・流動性(liquidite)とは?……富の機能は自然的実体によっては果たされない。富に必要な属性
は,「集団の全成員によって受領される能力」,or「集団の満場一致欲望の焦点に位置する能力」。
貨幣=「社会的に承認され正統化された富」。
・富の両義性……自由・独立である半面,孤独・排除でもある(分離そのものにも当てはまる)。
どちらが強調されるかは,望まれる(vouloue)か,耐え忍ばれる(subie)かによる;予測は不可
能。
・物々交換(troc)の問題(p69-74)
・正統理論の交換観……「消費から得られる効用を求めてなされる物の交換」,「主権的で節度あ
る諸個人,他者について不安を抱かず,他者に打ち勝とうとしない諸個人の間で結ばれる完全に平穏
な社会関係」。貨幣は,「欲望の二重の一致」という技術的困難に対処する容易化の手段(貨幣的
交換,道具的貨幣);受領可能性の問題は提起されない。
・批判……物々交換の可能性は否定しない(市場社会;価格に依拠した物々交換,原始社会;多様
な社会的参照基準に依拠した物々交換)が,参照基準なしの物々交換が安定的とは考えない(物々
交換≠安定的交換形態)。
・本書の交換観……物々交換の動機には,効用(商品)だけでなく流動性(取引手段)もある。
物々交換は,経済主体が「どんな仮面の下に富が隠れているか」を執拗に探索するプロセス(情報
収集を伴う)でもある。
・市場の原初状態(la situation marchande originelle)……危機の時期:効用の追求が消滅し,
流動性の差し迫った探索のみがなされる(F1が描き出す状況)。
・貨幣はどこからくるか?:模倣衝動プロセスのモデル化(p75-86)
*議論の枠組……「市場社会の貨幣的理論」(ie.歴史的移行を扱うのではない)。
*問い:「信念と利害の極端な分裂化から出発するとき,経済諸主体に共通な参照基準はどのように
構築されるのか」(p74)→ジラール仮説によって解明:
*R.ジラールの思考……「ロマン主義の虚偽」に対置される「ロマネスクの真実」:存在の欠乏に
苦しむ人間を想定,存在の不完全性の表現である模倣衝動(mimetisme)を人間の第一次的心理的
与件として重視。「主体―手本―対象」の3項関係から出発:主体と手本の距離から媒体
(mediation)を,@外的媒介(ドン・キ・ホーテ),A内的媒介[『こころ』の三角関係]
に区別。
*市場的秩序への適用:
@ジラール的個人が妥当性もつ……富の探索を通じた自己の保護という要求は,ジラール
的な欲望。非市場的秩序には,正統理論の仮説が妥当。
A模倣衝動という概念は,富の自己言及的性質に適用される。
B存在の欠乏は,心理的要因(ジラール)ではなく,商品的分離による。
*F1(本質的暴力):
@F1の状況……「個人A・Bが,他者の欲望するものを所有しようとして,互いに観察し合
っている」状態。富という一個同一の物を求めているという点で,諸個人の差異は消滅
している。F1が全面化した状態:「明白な公的表現を課すところの社会的に通用する貨
幣が登場していない下で,社会の全成員の行動が完全に富へと向かっている」。
AF1の諸特性:
(1)分裂化(fractionnement)……F1は全面的な分裂化の状況→最も絶対的な不確実性
をもたらす:∵物の価値を決めることができない。
(2)差異消滅(indifferenciation)……旧来の差異化資源が役に立たない状況の下で,
財産価値保全の要求から誰もが模倣的探索を強いられる。
B批判的含意……市場的個人や物々交換に関する正統的な表象に対して,それらの不完全性,
暴力性,矛盾(敵対関係と紐帯の両義性)を対置。
*F3(創始的暴力):
@ジラール基本定理……「ルネ・ジラールの根本的に重要な発見は,本質的暴力がそれ自体
の内に自らの超克の諸資源を見いだすことを解明したことにある」。含意:行き着く先が,物理的
暴力の回帰でも,社会の終焉でもない点で,意外な結果;これは,模倣のダイナミクス(純粋に認
知的なプロセス)による。
A模倣的選出(election)プロセスの諸属性:
・プレイヤーの差異消滅・信念の一点集中(polarisation)
・選別された物の非決定(indetermination)
・最終状態の自己実現(満場一致の自動的再生産) |
B「創始的暴力」の含意:
・満場一致は極端な暴力状況である……F!においては,差異消滅はまだ隠されてい
た;見いだされる多様な敵対性は富の欲望の偏った表現にすぎず,差異はいずれ消滅する二次的・
従属的なものにすぎなかった。
・秩序と暴力の差異は些細なもの……「個人Aは個人Bに対して,そして相互に恨みを
抱くのを止める。なぜなら,2人とも,個人的敵対関係の唯一の原因が,知らぬ間に生贄が行使し
ていた不吉な影響力にあることを突然に発見するからである」
C世界の変容:
・主体の認知的転換(模倣プロセスの内生的帰結として共通の参照基準が生み出さ
れる→コンフリクトは消えないが,何についてのコンフリクトか分かるようになる);社会的転換
(内的媒介から外的媒介への移行が生じるため,模倣は不用になり,物に根を下ろした信念が行動
の基礎になる;「選別された物は,社会的に承認された制度の地位を獲得する」;これは排除
(exclution)と呼ばれる)。
・貨幣の生成……「市場社会は,差異消滅から抜け出し,満場一致で承認された媒介
(mediation)――制度としての貨幣またはF3――を獲得する」。
・貨幣の正統性(legitimite)(p84-86)
・「排除」は正統性を要求……「しかしこれらの理論[自己言及性に言及した理論]は,信念の
満場一致に至るプロセスについて何も語っていない。ところが,この満場一致が持続的媒介の地
位を獲得するためには,単なる偶然事として(すなわち模倣衝動の一時的所産として)認められ
るのではなく,誰もがそれ以降頼りにすることができるであろう実在として,社会成員の眼に映る
のでなければならない。選別―排除が社会によって正統的なものと認められねばならない。これを
われわれは先に「排除」と呼んだ」
・効率性要因としての正統性……模倣衝動を導いてきた選択からそれるような「偏倚した意見」
が存在するとき,満場一致は必ずしも獲得・再生産されなくなる。このとき,貨幣経済を非効率に
する不安定性が生じる。正統性は,同意の感情を生み,偏倚した意見を公にするのを阻止する働
きをもつ。
・模倣的競争のモデル(p86-89)
・F2(相互的暴力)……貨幣の論理的分析を構成する諸プロセス:「F1においては,富の追
求,模倣的差異消滅,本質的暴力;F3においては,選別―排除,そして最後にF2においては,
通貨間競争」。F2は,「私的諸勢力が新しい萌芽的通貨を通じて通貨制度[F3]を問い直そう
としている」状態を意味。F2のプロセスは,F3が生み出すもの。
・模倣的競争モデル:「慣習的になされているように事前的に定義された商品を対象とするのでな
く,富を対象とするときに明らかになる競争諸力のダイナミクス」……その意義:投機のダイナミ
クスや通貨間競争(F2)を考えるとき有用。その基本的特性:「プレイヤーの差異消滅,信念の
伝染,均衡の複数性,満場一致の自己実現」。
V.信認の役割(第V章より)
1.貨幣の全体論的(holiste)次元(p98-102)
・根源的な理論的問い
……「個人的利害のみを追求する諸個人から成る社会は,どのようにして,万人の万人に対する
全面的戦争,およびカオスに至らずにすむのか?」→答え:「貨幣によって」:
・貨幣の能力……「貨幣は外在性(exteriorite)の位置を占めるこ
とによって,このことに成功している。……貨幣は,「私的」と呼ばれるものを構成するところ
の敵対的諸主体の総体よりも階層的に上位にある,無比の力としての社会を代表している。社会
的総体性を表現または代表する貨幣のこうした能力は,満場一致の模倣的一点集中の作用によって
獲得される。このことによって,生産者―交換者の全員に対して,貨幣は,集団を構造化する創始
的規範として現れる」。
・テーゼ:貨幣=社会的総体性の表現:
・正統理論の考え方……@「貨幣の中立性」命題の役割:(1)貨幣と発行機関の存在を認識,(2)商品
関係は経済行為者の私的意志によって専ら支配される,という2つの要求を調停。A貨幣を廃止し私
的支払手段間の競争を導入する提案:貨幣的現実を個人主義的価値と折り合わせる(需給法則の作用
を交換手段の生産に拡張する)試み。
・原始社会の研究(Mauss,Simian)はテーゼ確認;しかし,現代貨幣との間に距離あり;現代におい
て重要な問い:
「個人主義的諸価値の影響力の下で現代の社会的総体性が形成されるときの非常に特殊な仕方」は?
2.信認の役割とは?(p102-104)
・ジンメルの議論……貨幣の抽象化(シンボル媒体からの分離)を
考慮(→価値論否定を含意);貨幣=社会的抽象に対する主観的態度を信頼(信認)(confiance
)と呼ぶ;「信頼,すなわち,交換において,貨幣が各人の知らない第三者によって受領されるで
あろうということを公準化すること」[=一般的受領信頼]
・信認の問題とは?
・信認および制度的次元に力点を置く考え方→表券主義ないし制度主義アプローチに属する(cf.
金属主義・リアリスト)
・信認は契約ではない……「信認は個人間関係ではなく,集団(collectivite)総体に対する各私的
主体の関係である。この関係は制度主義アプローチにおいて重視される。なぜなら,そこでは貨幣と
は,支払共同体という交換者の集団を代表するものだからである。信認は,貨幣の無条件な受領性と
なって表明される」
・信認維持という調整(regulation)問題……受領性は「自然的に」維持されるものではなく,通貨
危機の中では攪乱,さらには破壊される。「信認の維持は,最高度に重要な調整問題と見なされねば
ならない」
3.信認の3形態(p104-106)
@首尾一貫性(methodique)信認……規則性(regularite)の所産:
「交換を上首尾に遂行し私的債務を返済するという行為が繰り返されることに由来する」。これを
支える実際の市場での実践(ルーティンと伝統):「金融取引の中で発せられる言葉(parole)の
尊重,相互保証を生み出すクラブ的心性,組織的市場における健全性規範の受け入れ」
Aヒエラルキー(hierarchique)信認……「貨幣のパワー(pouvoir
de l'argent)」による敵対的関係が吹き荒れるとき(ex.金融革新,健全な行動の軽視),@は
重要でなくなる。ヒエラルキー信認の対象:(1)国家の経済活動(主権的ロジックに由来):「公的
権力による社会成員の保護という名目でなされる,移転・徴収・支出に関する正統的な権力」,(2)
主権性の刻印を押すところの「帰属のシンボル」。
B倫理(ethique)信認……Aは@よりも上位にある(政策当局はルール
変更の権限をもつ);だが当局による通貨的調整は任意なものではなく,国際化の盛衰とともに変化
する。さらに,当局の通貨への影響行使を制約するもの:(1)個人主義の諸価値(合理的人格,自
発的取引以外の社会的紐帯からの解放),(2)倫理的態度(個人的理性のうちに内面化された義務と
しての,人格の満足感)。こうして,貨幣をめぐる政策は,「貨幣的秩序(ordre monetaire)」に
順応せねばならなくなっている;20世紀の貨幣的秩序には,賃労働の全面化,社会権の展開,が含ま
れる。
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