現在の研究テーマ: @ミドル・マネジメント(中間管理職)に関する研究
              A経営学におけるナラティブ・アプローチの方法論的可能性に関する研究

研究領域: 経営組織論

研究の動機と概要:
 大学院修士課程の時から、一貫してミドル・マネジメントに関する研究を行っています。私が大学院に進学した90年代半ば当時、日本企業のITインフラが劇的に整備されてきた時代で、トップとロワーを単につなぐコミュニケーション媒体としてのミドルはもはや不要になるという議論が、多くのマスメディアでまことしやかに叫ばれていました。しかし、あまのじゃくな私は、こうして不遇の境地に立たされたミドルのレーゾンデトール(存在意義)を何とか発見して、彼・彼女らを擁護する立場になりたい、そのようなお節介な正義感からミドル・マネジメントの研究に着手し始めたわけです。また、大学院生になると、後輩にあたる学部のゼミ生の指導を拝命するようになり、師匠とゼミ生との間に立っていると双方が互いの言い分を直接ぶつけ合わないで、自分を介して行われることが多いことに気づくようになりました(大学院生時代を過ごされた方なら誰でも思い当たる節があるのではないでしょうか?!笑)。この時、実はミドルはトップとロワーのコンフリクト(軋轢)に対するバッファリング・ファンクション(緩衝機能)という重要な役割を担っているのでは、という思いを抱かずにはいられませんでした。かくて、こうした原体験は、益々もって私をミドル研究へといざなうくきっかけになりました。
 さて、上述したようにITが企業に著しく普及していく時代にあって、ミドルの新たな役割を主張する日本の研究者が不在だったわけではもちろんありません。ミドル研究の金字塔を打ち立てられた金井寿宏先生(神戸大学)や高木晴夫先生(慶應大学)が、あるいは河合忠彦先生(筑波大学)らが、それぞれ『変革型ミドルの探求』(白桃書房)、『ネットワーク・リーダーシップ』(日科技連)や『戦略的組織革新』(有斐閣)なる著書の中で、ミドルによる社内ネットワークの構築が組織にイノベーション(革新)を与えることを体系的に論じておられました。そして、私のミドル研究では、これら先達の優れたミドル研究に対して、ミドルの企業外部へのネットワーク行動が、当該組織にとってどのような影響を及ぼすかにフォーカスしている点に、研究オリジナリティがあります。すなわち、ミドルによる対外的ネットワーキングに関する組織論的示唆の研究ということになります。
 ところで、ミドルを始め、トップなどのリーダシップに関する研究は、その方法論としてアンケートなどの配布と回収を通じて大量サンプルを収集し、統計的解析にかけることで仮説を検証する定量的研究が支配的です。社会心理学をバックグランドに研究蓄積を重ねてきたリーダーシップ研究にとって、そのような研究方法論を採用してきたのは至極当然のことでしょう。そして、一定の研究成果が得られたのも事実です。しかしながら、定量的研究によって導出された結果は見かけの因果関係に過ぎないので、原因と結果を橋渡しするプロセスを詳細に記述する必要性が近年叫ばれるようになってきました。つまり、定量的研究で捨象してきた管理者の日常行動を、もう少し丹念に観察し厚い記述をもって調査するような定性的研究の重要性が主張されるようになりました。そして、経営学にとどまらず、あまねく社会科学という領域での定性的研究の一方法論として注目を集めているのが、ナラティブ・アナリシス(物語分析)です。ただし、ナラティブ・アナリシスの社会科学への援用は緒に就いたばかりなので、研究方法の有効性を指摘する研究は散見されるのですが具体的な研究手続きにまで踏み込んだ研究は少なく、統一的見解の無いのが実情です。そこで、私は経営学研究にナラティブ・アナリシスを用いる準備的考察として、ナラティブ・アナリシスがどのような文脈の中で主張されているかを文献レビューしました。すると、どうやら同分析手法を機能主義的な立場で論じる研究者と、解釈主義的立場で論じる研究者とに二分できるのでは、という問題意識をもつようになりました。
 以上大変雑ぱくですが、現在の私の研究に対する問題意識や概略を説明させて頂きました。このような研究着想の下、ミドル・マネジメントに関する研究においては、ミドルが対外的なネットワークを形成する際に有効となるパワー・ベースと信頼との関係性について、ナラティブ・アナリシスに関する研究においては、分析手続きの開発とそれを用いた現象説明について、それぞれ研究に取り組んでいます。

研究業績:
 1)著書
  ・『四訂医療・福祉経営管理入門』国際医療福祉大学出版会,2004年(共著)
   ※担当箇所 第T部第5章「医療・福祉施設における組織と管理」,第U部第23章「福祉情報システム」
  ・『福祉NPOの挑戦−コミュニティケアの経営管理−』国際医療福祉大学出版会,2003年(共著)
   ※担当箇所 第U部第3章「事業計画と多角化戦略」
  ・『ニューリーダーの組織論−企業のダイナミズム−』泉文堂,2002年(共著)
   ※担当箇所 第12章「パワー」,第14章「組織文化」,第16章「ナレッジマネジメント」
  ・『核心経営−企業の存続と発展へのガイドブック−』白桃書房,2000年(共著)
   ※担当箇所 第5章「ミドル・マネジメントの役割と育成」

 2)論文
  ・「経営学とナラティブ−その研究パースペクティブとリーダーシップ研究への接近−」
   『専修大学経営学論集』第81号、2005年(単著)
  ・「中小企業における自律的経営に関する実態調査−栃木県製造業の事例を中心に−」
   『専修大学経営研究所報』第159号,2004年(単著)
  ・「組織間関係における信頼とパワーの連動過程−境界連結者の機能を中心に−」
   『専修大学経営研究所報』第150号,2003年(単著)
  ・「境界連結者のパワーメカニズムに関する一研究−ミドル・マネジメントによる情報パワーとメディア選択の有効性について−」
   『専修大学経営研究所報』第138号,2000年(単著)
  ・「ミドル・マネジメントと動機づけに関する一考察−企業内企業家精神論との関連から−」
   『専修社会科学論集(大学院紀要)』第25号,2000年(単著)
  ・「ネットワーク・リーダーシップ研究−行為主体とパワーの問題を中心に−」
   『専修社会科学論集(大学院紀要)』第24号,1999年(単著)
  ・「ミドル・マネジメントに関する一研究−企業家精神を視座に据えて−」
   『専修社会科学論集(大学院紀要)』第20号,1997年(単著)

 3)学会報告
  ・「経営教育における物語分析の可能性」日本経営教育学会第46回全国研究大会報告(於:京都産業大学),2002年10月25日
  ・「ネットワーク形成過程における信頼とパワー構造」日本経営学会第76回大会報告(於:明治大学),2002年09月07日
  ・「境界連結者の情報パワーに関する一研究−情報の多義性とメディア選択との関連を中心に−」
   2000年度組織学会研究発表大会報告(於:滋賀大学),2000年06月03日
  ・「ミドル・マネジメント研究−企業家的行動の枠組みと動機づけを中心に−」日本経営教育学会第39回全国研究大会報告
   (於:東洋大学),日本経営教育学会第39回全国研究大会報告(於:東洋大学)
  ・「ネットワーク・リーダーシップに関する一考察−パワーの正当性の問題を中心に−」1999年度組織学会研究発表大会報告
   (於:北陸先端科学技術大学院大学),1999年06月05日

 4)その他
  ・文部科学省科学研究費補助金 若手研究B(2004ー2005年/研究課題名「組織間協働過程におけるパワーと信頼の構造に関する実証研究」)
  ・『基本マーケティング用語辞典』白桃書房,2004年(共著)
   ※担当用語:「NPO・NGO」,「事業部制」,「スペシャリスト」,「タスク・フォース」,「プロジェクト・チーム」,「ライン&スタッフ」
            「リーダーシップ」,「委員会組織」,「集権化・分権化」,「組織(ネットワーク)」,「地域別販売組織」,
            「中間管理層」,「非公式組織」
  
『経営学検定試験>試験公式テキスト−試験ガイド&キーワード集−』中央経済社,2003年(共著)
   ※担当用語:「達成欲求理論」,「動機づけ−衛生理論」,「期待理論」

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