その他(教育・研究)
第01回 前編(2003.05.09)
【 アンデス高地の環境利用の特質に関する調査 2002年度 前編 】
2003年3月8-29日 ペルー共和国・ボリビア共和国

2001年度より科学研究費「アンデス高地における環境利用の特質に関する文化人類学的研究 (代表者: 国立民族学博物館 山本紀夫教授)」調査隊に、 自然地理学分野研究分担者の一人として参加しています。
初年度はエクアドル共和国中部とペルー共和国北部を調査しました。 2年目はペルー南部とボリビア共和国を対象に、地形や第四紀地質を広く見て回りました。
「教育・研究」「アンデス第1回」は、2002年度の調査旅行を3回にわけて解説します。

【図0:2002年度行程(GPSログ)】
大勢で野外を移動すると、地図に移動経路を書きこんだり、野帖に丹念に記載をする時間が減りがちです。 また外国では地図が入手できず、自分の移動経路が十分把握できないまま旅をせねばいけないこともあります。 こうした状況を放置しておくと記憶はやがて薄れ、何も見聞しなかったに等しい状態に陥ります。 それを避けるため、今回は携帯GPS機( Garmin 社、etrex)で移動軌跡と地点情報を常時記録することにしました。 またGPS機に地図(同社製)を書き込み、電子地図帖として利用することも計画しました。 物価や食事などの情報はIC録音機( SONY ICD-S7)で記録し、野帖に書き移すことにしました。 さらに、装備の軽量化と事後管理の容易さを考え、映像はデジカメ( Canon IXY200)で収録しました。 今回は行く先々で商用電源が使え、ほぼ毎晩データ整理ができたこともあり、この戦略は成功しました。 図0はGPS実ログ・データを使って移動経路を示したものです。 赤線がところどころ欠落しているのはデータ未取得区間です。 ペルーの首都Limaから太平洋岸を南下し、 同国第二の都市Arequipaを訪れたのちにTiticaca湖畔の観光都市Punoに向かいました。 その後、世界最高所の首都(実質)として知られるボリビア共和国のLa Pazを訪ね、 Cuzcoを経て再びLimaに戻る周回経路をとりました。 図0の基図制作には、 Kashmir 3DGTOPO30を使いました。

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【図1:3月8日(土)ペルー入国】
日本−ペルー間に直行便はありません。 今回は合衆国 Houston 乗換でLima入りしました。 待ち時間込みで約24時間。空の旅は好きですが、長旅で疲れました。 毎度のことですが、 Lima国際空港 を一歩出るとタクシーの客引きがどっと集まってきて圧倒されました。 夏のため空気に多少の温さと湿り気を感じたものの、夜風が汗を乾かしてくれました。 図は、クラクションと怒号が渦まく深夜のLima空港駐車場です。

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【図2:9日(日)Lima滞在】
LimaのMuseo Amanoは、故天野芳太郎氏が私財を投じて建てた本格的な考古博物館で、 プレインカ・インカ時代の土器や織物の収集で有名です。 現在は天野美代子夫人(館長)以下、阪根 博事務長、 鳥居恵美子解説員および現地スタッフで切り盛りしています。 昨年もそうだったのですが、スタッフ全員が親身にお世話して下さり、 もう一人の調査隊員といっても過言でないほど本研究に協力して下さっています。 図は、Museo Amano正面。 [Museo Amano:GPS測位では南緯12.06502度、 西経77.02275度、WGS84系;以下同じ]

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【図3:10日(月)Lima滞在】
ペルーでは、地形学調査に不可欠な空中写真や地形図は比較的容易に入手できます。 Lima市内の 国立地理研究所 には英語を話せる係員もおり、購入相談に応じてくれます。 大縮尺図面には青焼きも一部ありますが、縮尺5-10万分の1等高線印刷図はかなりの範囲が揃っているようでした。 ほかにGIS電子地図や衛星画像も扱っています。 [地理研究所:南緯12.06082度、西経77.01009度]。

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【図4:11日(火)Lima>Nazca】
旅を始めました。南米大陸を縦断するPan American highway(国道1号)を太平洋沿いに南下します。 進むにつれ乾燥度は増し、砂漠が見られるようになります。 また東方の山地から流出した砂礫で構成される広大な扇状地が、砂漠をぬって分布します。 これは現成の地形ではなく、最新氷期中の多雨環境下で作られたものでしょう。 一方、年間を通じて流水のある大河川沿いの沖積低地では、集落が発達してイネやサトウキビが栽培されています。 砂漠の中の緑の通路にも似たその光景はオアシスそのものです。 図は、砂漠でみつけた風食礫ventifactで、画面左下から卓越風が吹いていると推定されます。 GPS受信機の長辺は約11cm。

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【図5:12日(水)Nazca>Arequipa】
12日朝、山本さんが地上絵空撮のため小型機をチャーターするというので便乗しました。 副操縦士席から見る地上絵はもちろん、遺跡周辺の地形や景観は実に素晴らしく、 約30分の飛翔は瞬く間に過ぎました。広大な開析扇状地、それを作る厚い風化礫層、 侵食で失われることなく新鮮なままの網状流痕・・・。 いったい、どんな環境がここでみられたのでしょうか。 図は、上空からみたハチドリです。このあとNazcaから太平洋岸をさらに南下し、 途中で河成地形面や、旧汀線の保存がよい海成段丘面を調査して夜更けにArequipaに着きました。

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【図6:13日(木)Arequipa>Luicho】

溶結凝灰岩が建築に多用された美しき街Arequipaと別れ、その北西約200kmのLuichoに向かいました。 ここは稲村さん( 愛知県立大 国際文化研究科)が滞在して牧畜・農耕の調査をしたPuica村の近くで、 今回は地形学的調査を行う計画で訪問しました。 当地へは太平洋に近い低標高域から峡谷(図9のRio Colca下流部)を遡上し、 どんづまりの急斜面を一気に昇って標高4,000mの高原(火砕流・溶岩台地)を走破せねばいけません。 カラカラに乾いた乾燥低地からミゾレ舞う高山まで。この日は高度と環境の差が実に大きい移動を経験しました。 図は、途中のChuquibamba付近の巨大崩壊とその堆積物です。左下に1車線道路が見えます。 [大崩壊地点:南緯15.55185度、72.32131度西経]。

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【図7:14日(金)Luicho周辺】
Puicaでは稲村さんがかつて世話になった家族の歓待を受けました。 突然の客なのに家に招き入れてくれ、Chicha(トウモロコシ発酵酒)や、 Chuno(凍結乾燥ジャガイモ)・インゲンマメ・青菜入りスープ( 第01回 食編 に詳細あり )をふるまってくれました。 煤けた土間に家族全員が集まり、大人たちはChichaを味わい、子供たちはデジカメに興味を示して歓声を上げています。 モノが豊かに見えるわけではない一家でしたが、家族の幸福とは何かを考えさせてくれたひとときでした。 図は、標高3,670mのPuicaの全貌。[Puica:南緯15.03336度、西経72.41305度]

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【図8:15日(土)Luicho>Arequipa】
Luichoには温泉が湧いていて、村民の社交場になっています。 私も入湯料約36円のこの風呂に二度行き、周りの岩峰を望みながら汚れを落としました。 村民の多くは浴槽で体と髪を洗う習慣をもつので(浴槽外で洗うという概念はあまりないらしい)、 大勢が集う夕方は湯が濁りがちとのことです。図は、旅の疲れを癒す調査隊員。 この日以降、岩田さん( 東京都立大理学研究科地理学教室 )・稲村さんの隊はPuica周辺の集中調査に出かけ、 山本さんと私はボリビアをめざしArequipaに戻りました。[温泉:南緯15.08411度、西経72.46591度]

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【図9:16日(日)Arequipa周辺】
16日は深い峡谷で知られるCanon del Colcaの階段耕地の調査に行きました。 Rio Colcaの両岸は厚い湖成層や段丘礫層(アウトウオッシュ堆積物含む)でできており、 斜面崩壊や地すべりの痕跡も随所にみられました。 深い峡谷という地形配置と未固結堆積物が斜面崩壊の素地を提供してきたのでしょう。 崩壊斜面の多くは立派な階段耕地に改変され、さながら"千枚田"のような景観を作り出していました。 図は、そうした耕地の一例です。[階段耕地:南緯15.38136度、西経71.47274度]

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【図10:17日(月)Arequipa>Puno】
Arequipa郊外の第四紀火山 El Misti(5,822m)を調査してTiticaca湖に向かう予定でしたが、 時間的に苦しいので直行することにしました。 快晴のArequipaでしたが、Punaとよばれる標高4,000m程度の高原に向かうに連れ天候が悪化し、 ついに大粒のミゾレが車窓をたたく事態になりました。これも雨季ならではの光景です。しかしひとときの水の恵み。 そのおかげで雨季のPunaは一面緑に覆われるのです。とくに十分な水が得られる谷底では草が芽吹き、緑のじゅうたんを織りなします。 図ではよく見えませんが、こうした谷底でリャマやアルパカの牧畜が行われます。

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