| アクティヴィティー(生産・消費) | 非金融資産(生産・非生産) | 輸出 | ||
| 期首ストック | 1 | |||
| 生産物の使用 | 中間・最終消費(国内産出の) | 粗資本形成(国内産出の) | 輸出 | 2 |
| 中間・最終消費(輸入品の) | 粗資本形成(輸入品の) | 輸出 | 3 | |
| 生産固定資産の使用 | −生産固定資産の使用 | 4 | ||
| 純付加価値/NDP | 5 | |||
| 産業の産出額 | 6 | |||
| 非生産自然資産の利用 | 非生産自然資産の減耗 | −非生産自然資産の減耗、土壌浸食(+,-)を含む | 国外への影響 | 7 |
| 土地の用途変更、継続的使用による質の変化(+,-) | 8 | |||
| 土地・景観・生態系の使用 | 土地・景観・生態系の使用による劣化 | |||
| レジデュアルの環境への排出と | レジデュアルの排出と受容と | 国外への影響 | 9 | |
| それによる劣化費用(+) | それによる劣化費用(+,-) | |||
| 自然資産の復元(-) | 自然資産の復元(+) | 10 | ||
| 環境費用のシフト | 環境費用のシフト | 11 | ||
| レジデュアルの経済的処理(+,-) | レジデュアルの経済的処理(+,-) | 12 | ||
| エコ付加価値/EDP | 13 | |||
| その他の資産量変動(上記以外) | 経済的意思決定によるその他の量の変化のうち上記以外のもの | 14 | ||
| その他の量の変化(自然的・複合的) | 15 | |||
| 再評価 | 再評価 | 16 | ||
| 期末ストック | 17 |
ヴァージョンVのSEEAでは、上の表の項目を物量表示でうめてゆく。再評価と固定生産資産の使用は例外である。NDPについては、時間表示が考えられている。この段階で資産境界の拡大が行なわれ、経済資産以外の非生産自然資産が記録対象として取り込まれる。そうすることにより、環境媒体としての土壌、水、大気の経済活動さらに人間の生活との関わりをより十分に記述できるようになる。自然資産の5つの基本分類(生物資産、土地、地下資源、水、大気)が完全に機能し始める。土地は、スペースであると同時に土壌である。SEEA行列(物量勘定)では、行分類項目である「土壌浸食」(非生産自然資産の減耗の内訳としてヴァージョンVで明示される)で列分類項目の土壌カテゴリー(CNFA 2.1.3.1)から土地のその他のカテゴリー(CNFA 2.1.3.2、2.1.3.3)や水(CNFA 2.1.4)への物量的移動として記録される(『暫定ハンドブック』248段など)。この行では、土壌の量としての流入が自然資産の<質>を表現しているといえるかもしれない。49)スペースとしての土地(「領域」area )のストックは、物量勘定では、面積で表示することができるが、土壌はそうではない。ヴァージョンWの貨幣評価では、土地の不適切な経常利用から引き起こされる土壌浸食は、劣化費用の一部分として、土壌列ではなく、土地の評価低下として記録されるであろう(上表の8行、『暫定ハンドブック』248段)。また、表の8行では、土地の用途変更による「土地領域」の分類カテゴリーの移動や土地の不適切な継続的利用による劣化による質的等級の変更(これも分類カテゴリーの変更であり得る)が物量(面積の+および−)で表示される。もちろん、ヴァージョンWでは、対応する劣化費用項目が追加される。
ヴァージョンVのレジデュアルの取り扱いについてふれておく。SEEAのレジデュアルは、経済活動(消費を含む)の望まれない副産物である。市場で売買される廃棄物・スクラップ(CPC39)であってよい。自然的原因による生産資産の破壊は、定義上レジデュアルをもたらさない。排出ベースでレジデュアルを物量として記録することはすでに述べた。したがって、時間の経過とともにレジデュアルが変換し、環境に影響を及ぼしてゆくプロセス(包括的アクティヴィティーとなってゆくプロセス、「環境変換の動学」)の記述は十分とは言えない。
レジデュアルは、生産・消費のアクティヴィティーおよび生産資産から自然環境に排出される(9行)か、環境保護施設(12行)に貯蔵ないし処理のために排出される。SEEAのフォーマットの9行では、排出するアクティヴィティーないし生産資産に−符号で、受け入れる(シンクとしての)環境媒体すなわち土壌、水、大気の列に+符号で記録する。12行でも同様であり、管理された廃棄物埋め立て処分地(controlled landfills of wastes)を含む環境保護用の人工資産の列や環境保護活動(リサイクリング活動など)に+符号で投入されるが、環境への投入はない。ただし、環境保護活動や施設へ投入されたレジデュアルも、処理されたうえで、あるいはそのまま輸送されて、いずれ環境への排出になりうるものである。なお、この行は、土壌浸食の行と同様に物量勘定でのみ機能する(『暫定ハンドブック』317段)。50)
SEEAの非生産資産カテゴリーである「土地」(水域を含む)は、陸上および水圏の生態系(エコシステム)あるいはエコゾーンを伴ったものとして定義されているので、ヴァージョンVにおける「生態系」概念の採り入れについて若干付け加える。「生態学」は、「高いレベル」(個体群すなわち同種集団や群集すなわち異種集団)の生物集団を、その生活を支える環境要因をふくめた「システム」として捉え、個体レベルから積み上げて合成することによってではなく、その法則性を発見しようとする。51)ここでいう「システム」が「生態系」であるが、このような「生態系」概念の反映として、ヴァージョンVの物量勘定では、生物資産を個体として、そして、生態系の一部として二重に記録するという自然資源勘定で見られる方法が継承されている(『暫定ハンドブック』148、170、171、194段など)。もちろん、ヴァージョンWの貨幣評価からは、こうした二重計算は排除されることになるであろう。
土地カテゴリーにおける「生態系」の係わりについて、さらにコメントしよう。まず、領域としての土地は、土地被覆(land cover)の種類によって、内訳カテゴリーに分類することができる。その場合、土地被覆の記述は、生態系の類型と密接に関連づけられたものになるであろう。このように、カテゴリーを細分するという方法は、「質」を取り扱う典型的かつ正当な方法であるが、ここで、生態系が「質」として処理されているといえるであろう。土地利用の変化や土地の不適切な経常的利用を原因とする生態系の劣化は、土地領域の上のような意味での質の変化として処理することができる(『暫定ハンドブック』249、250段)。
「質」については、もともと、SNAの「その他の資産量の変化」というときの「量(ボリューム)」が質を含む概念であることは、『暫定ハンドブック』195段で注意されているとおりである。52)もちろん、土壌の変化も土地領域の質の変化であるとみることができる。それ以上に、「土壌」自体が微生物を不可欠の要素として含む生態系であることに注意すべきであろう。また、『暫定ハンドブック』では、環境媒体(大気、水、土地)の「質」の指標について言及している箇所がある(195、198、322段)。「質」の指標化は、「質」を取り扱うもうひとつの方法ではあるだろう。
ヴァージョンWに移る。ヴァージョンVでは、ヴァージョンUのSNAタイプの貨幣データに非生産自然資産の使用に関する物量データを付け加えたが、ヴァージョンWでは、ヴァージョンVの非生産自然資産の使用の物量単位のデータに貨幣的評価を与える。それが「帰属環境費用」と呼ばれるものであり、SNAの付加価値や国内純生産(NDP)からそれを差し引くことによって、エコ付加価値 Eco Value Added(EVA)やエコ国内純生産 Eco Domestic Product (EDP)を得ることができる。評価方法のちがいによって、W−1、W−2、W−3の3つのサブ・ヴァージョンがある。コストボーン(被害者原理)で帰属環境費用の市場価格評価を行なうW−1、コストコーズド(責任者原理)で帰属環境費用の維持費用評価を行なうW−2、W−1と同じコスト・ボーンであるが、産業が負担する市場価格評価による帰属環境費用に加え、家計が負担する帰属環境費用を仮想市場評価で計上するW−3である。
このヴァージョンの説明に必要な諸概念の相互関係について若干注釈をしておく。環境費用は、現実環境費用と帰属環境費用からなる。環境悪化(environmental deterioration)を引き起こしそうなアクティヴィティー、あるいは引き起こしたアクティヴィティーに関係する環境費用(環境保護費用)をコストコーズドという。問題のあるアクティヴィティーに対する末端処理装置の設置(正確には、稼働)に関わる費用や設置しなかったことに起因する環境悪化に対する帰属された費用である。それに対して、アクティヴィティー(や人間)がそれ自身に原因があるかどうかにかかわらず、環境悪化の影響を受けること、あるいは、その可能性に関連して負担された環境費用のことをコストボーンと呼ぶ。それは、環境保護費用であるほかに、はねかえり費用でありうる。両者の共通部分は、そのアクティヴィティー自身に原因があり、そのために影響を受けたり費用を負担したりする場合である。たとえば、鉱業による地下資源の行き過ぎた採取の場合がそうであるし、環境の悪化(劣化)を事前に防止するための現実の費用は、潜在的悪化に責任のある産業によって負担されているであろうから、この部分もコストコーズドでありかつコストボーンである。
コストコーズドもコストボーンも減耗費用と劣化費用とに分類される。減耗(depletion、消耗)は、環境の数量的使用、劣化(degradation)は、環境の質的使用と言い換えることができるが、前者は、たとえば、生物資産の再生能力を超えた利用であり、資産の数量(quantity)を減少させるものであるが、後者は、たとえば、レジデュアルの排出や不適切な土地利用による土壌の質の低下のように、資産の質(quality)を低下させる。ここでは、「景観」としての自然の質も人間との関わりから問題となる。53)減耗費用は、現実の自然の「減耗」に対して帰属された環境費用である場合が多いであろうが、市場価格をもつ経済資産としての自然の減耗がおこっている場合、市場価格で表示されたコストボーン<維持費用で表示されたコストコーズドでなければ、合理的経済行動ではないだろう。帰属環境費用としての劣化費用は、防止費用としてはコストコーズド、はねかえり費用としては、コストボーンである。(政府やその他の非市場主体の)復元費用(資本形成にならない中間消費としての費用で自然資産の回復という結果をもたらしたもの)は、現実のコストボーン(劣化費用)であるとともに、帰属環境費用としては、マイナスの劣化費用としてコストコーズドでもあり、コストボーンでもあるが、SEEAでは前者を維持費用で後者を市場価格と仮想市場評価法で評価するから、コストコーズドとしての復元費用とコストボーンとしての復元費用とではその大きさが異なる。
「はねかえり」(あるいは「リパーカッション」)費用は、現実のコストボーンである場合と帰属されたコストボーンである場合とがある。前者は、たとえば、大気汚染による固定生産資産の使用(固定資本減耗)の増加や医療費の増加、騒音防止のための二重窓の設置に関する費用、通勤費の増加54)などの環境劣化に関連する外部不経済にもとづく現実の費用であり、当然、現実の市場価格で評価される。後者は、産業については土壌浸食や汚染による影響を受けた資産の市場価格の減少を使って評価するが、景観と生態系の劣化や環境媒体の汚染が家計(労働者でもある、したがって労働環境も考慮される)に与える影響は、仮想市場評価法(contingent valuation method、CVM)により評価される。この評価方法については後述する。
第3図では、ヴァージョンWに特有の(斜体の)項目がいくつかあらわれている。ほとんどの項目は説明済みであるが、「環境費用のシフト」の行について、ここで説明しておく。この行では、家計の帰属環境費用を消費のアクティヴィティー(の列にマイナス計上)から生産アクティヴィティー(プラス計上)に振り替える。このような取り扱いの理由は、『暫定ハンドブック』275段で明らかにされているとおり、「環境悪化の社会的費用を完全に記録するため」であり、「家計消費によるレジデュアルの生産を家計生産の負の産出として扱うことを可能にする」ためである。
家計生産の本格的な取り扱いは、ヴァージョンXまで待たなければならないが、環境を問題とする場合、(慣行的な)生産の境界に固執する理由は、少なくなることは事実である。たとえば、「第三者基準」によって、マイカーの運転を境界内に入れることが考えられるが、排気ガスというレジデュアルがあり、環境に対する負荷という点では、タクシーの排気ガスと区別できるものではない。不均衡の分析や測定という慣行的境界の根拠づけは、説得力を大幅に失う。さらに、レジデュアルの排出という点では、一般的経済的生産の境界の外側にある消費のアクティヴィティーと生産のアクティヴィティーとを区別する根拠もあやしくなる。レジデュアルという<もの>が<生産>されているし、それが+の価値をもつか−の価値をもつかはア・プリオリに決められるものではないからである。
そこで、ヴァージョンXでは、拡大された家計生産の列をつくるほか、個別消費の列とは別に純粋な消費活動の列をつくり、借方側の合計額から産出を与え、その産出の行き先を個別消費列にする(要するに政府サービスの生産者と同様であるが、純付加価値はない)という取り扱いを行なっている。ヴァージョンWの段階では、そこまでは行かないが、レジデュアルの排出に関わるものなど帰属環境費用を生産アクティヴィティーにシフトさせるという処置によって本格的な取り扱いの代替物としていると理解できる。なお、(レジデュアルを貯蔵・管理するための環境保護施設を含む)生産資産からの環境へのレジデュアルの排出による劣化費用についても、同様の費用シフトをその生産資産を使用していたアクティヴィティーに対して行なう。
第4〜6表として、『暫定ハンドブック』のヴァージョンW−1、2、3の数値例を掲げた。本来、SEEAのヴァージョンは、第1図の矢印に示されているように、前のヴァージョンに積み重ねられてゆくものであるから、ヴァージョンWにもSNAタイプの金額データだけでなく、ヴァージョンVの物量データも記入される(並記される)べきであるが省略されている。
(第4〜6表 略 United Nations(1993)Integrated Environmental and Economic Accounting Interim Version.(Sales No.E.93.XVII.12 document symbol ST/ESA/STAT/SER.F/61、邦訳、『国民経済計算ハンドブック 環境・経済統合勘定』経済企画庁経済研究所国民所得部、1995年3月。)の第4.4表、第4.6表、第4.8表である。)
用語の説明をひとつ追加すると、各産業あるいは一国経済のエコ・マージンは、市場価格で表示した帰属環境費用にマイナス符号をつけたものであり、
それぞれのヴァージョンのエコ付加価値ないしEDP
±市場評価に直すための調整
=市場価格表示のEDP。
さらに、
市場価格表示のエコ付加価値ないしEDP
+エコ・マージン=NDP
という関係がある。
ヴァージョンW−2とW−3の評価方法である、維持費用法と仮想市場評価法について、それぞれ若干の補足を行なう。
「維持費用」とは、「国内の自然環境および世界的規模の自然環境の長期的な数量的・質的水準を損なうことのないように、会計期間の国内生産活動を修正し、その影響を軽減するためにかけるべきであった追加的な帰属費用のことである」。(『暫定ハンドブック』298段)市場価格評価(ヴァージョンW−1)だけでなく、維持費用法(W−2)に踏み込むことについては、『暫定ハンドブック』の295段で土地その他の<環境媒体>の「処分機能を損なう結果としてもたらされる費用を測定すること」がその目標であることを明瞭に述べている。そのような場合、市場価格は、環境悪化を反映したものになるとは限らないからである。55)
維持費用としての帰属環境費用は、環境負荷の直接的原因となるアクティヴィティーに計上される(『暫定ハンドブック』300段)。直接的責任を問題にして、最終的責任を問題にするものではないことは、301段で説明されているが、この規定により、熱帯雨林の過剰伐採は、木材の輸入国である日本の環境費用としてではなく、輸出国の責任としてアカウントされる。
実施上は、以下のような手続きにより維持費用の推計が行なわれるであろう(『暫定ハンドブック』394段)。
1)経済活動に起因する自然環境の物的な変化を記述する。
2)これらの物的変化によって、どの程度自然環境が量的に減耗し、質的に劣化したかを分析する。
3)これらの減耗や劣化を回避するために監視する必要がある量的または質的な基準を決定する。
4)決められた基準を満たしうる活動を選択する。
5)これらの活動のための費用を算定する。
上記3)が持続可能な発展の視点から政策的に定められるべきものであるとしても、4)の段階でいくつかの選択肢が残ってしまう(『暫定ハンドブック』307段)。
1)問題の経済活動の縮小ないし停止
2)経済活動の産出(outcomes)の代替。消費パターンの変更を含む。
3)新技術の導入などによる、経済活動の投入の代替。
4)問題の経済活動の基本的部分は変更せずに、たとえば、終末処理技術 end-of-pipe technology の導入による環境悪化防止策を実行すること。
5)環境の復元。問題の経済活動の環境インパクトの軽減手段の実行。
このような諸方法の中で環境基準に適合する最も効率的な(さしあたって最も費用の安い)方法が採用されるべきである(『暫定ハンドブック』309段)。次節で維持費用アプローチのひとつの実施例として、わが国の環境・経済統合勘定を検討することになる。
次に、ヴァージョンW−3の仮想市場評価法について議論する。仮想市場評価法に支払い意思額(WTP)にもとづくアプローチと受け取り意思額(WTA)にもとづくアプローチとがあることは、前節で見た。SEEAでは、支払い意思額にもとづく仮想市場評価法を若干修正して適用する。その修正とは、人々に環境悪化を回避するために支払う意思のある金額を尋ねるかわりに「人々に消費どの程度切り詰める意思はあるか」すなわち willingness to forgo consumption を尋ねることである。
仮想市場評価法が議論の余地のある、研究途上にある評価法であることは『暫定ハンドブック』321段などで自覚されており、SEEAの主要なヴァージョンがW−2であることはこのことからも明確である。受け取り意思額アプローチの問題についてはすでに述べたが、支払い意思額ないしそれと類似の方法をとっても、2つか3つの問題がある(321段)。まず、周知のただのり問題(意思額と実際に支払うと予想される金額とのずれ)がある。次に、答える側に環境に対する十分な知識がないかもしれない。さらに、支払い意思額は、所得状況に依存したものにならざるをえない。しかし、『暫定ハンドブック』322段は、このような方法がその問題にもかかわらず、民主的・参加的アプローチとしての重要性をもつものとして高く評価していることも付け加えておかなければならないであろう。
「支払い意思額」を「消費削減意思額」に変更したことの意義をどう捉えるべきだろうか?後者を全体としての消費水準の削減としてそれを捉えても、個別消費の削減として捉えても、たいした改善でもなさそうである。上の問題点はすべてそのまま妥当してしまう。ただし、第6表の個別消費列(第3列)にマイナス項目(-12.3および-63.0)として「消費削減意思額」を記入することは、SEEA行列の作成と整合的ではある。しかし、それ以上に強調したいのは、個別消費の削減あるいは消費パターンの変更というかたちでの「消費削減意思額」が維持費用法とつながってゆく側面をもつものであることである(上掲『暫定ハンドブック』307段の2)を参照)。それにしても、(「環境権」の視点を考慮するためにも)分配依存的性格を除去するための手法が必要ではあろう。56)
SEEAヴァージョンW−2における「消費削減意思額」の具体的適用について述べる。まず、SEEAの環境費用概念の中で、それは、家計の帰属はねかえり費用を推計する方法として採用されている。定義上、それは、現実はねかえり費用の金額を上回るものでなければならない。環境悪化が回避できるのであれば、現実はねかえり費用は必要なくなるからである。このことを、調査票の設計に役立てることができるかもしれない。次に、「消費削減意思額」が考慮される環境問題の数や質問の順序に依存することに配慮して、最初の段階では、環境媒体へのあらゆる経済的影響を避けることができるならば許容してもよいと人々が考える最大限の消費水準の低下を尋ねる。次の段階で、各々の環境問題への配分割合を尋ねるという方法が提案されている(『暫定ハンドブック』324段)。さらに、(追加的な)帰属はねかえり費用の推計は、家計の時間使用の分析と結びつけられるべきである。一日の時間使用の研究により、人々がどのような環境媒体の中で過ごしているかを明らかにすることができるであろう。また、居住環境とともに労働環境が問題となることも明らかである。第6表の数値例では、「消費削減意思額」(-12.3および-63.0)を、通常の市場価格表示の産業への帰属はねかえり費用(-1.1、0.0、3.4、6.7)とともに(6、7行の)2段目に帰属環境費用(0.2、12.1、0.3、62.7)としてシフト計上する際には、家計の労働環境も考慮されている。
ヴァージョンXについて詳述する余裕はまったくないので、各サブ・ヴァージョンのワンラインの特徴付けを行なっておくだけにする。なお、ヴァージョンWの「環境費用のシフト」のために、帰属環境費用そのものは、ヴァージョンWの対応する各サブ・ヴァージョンのものと変わりはなく、その配分が変わるだけであることに注意する。すでに述べた家計消費活動は、X−1、2、3で家計生産概念の拡大と同時に取り上げられている。なお、各ヴァージョンの対応関係については、第1図で矢印によって示されている。たとえば、X−4はX−2に、X−5はX−3に、X−6はW−2にそれぞれ新しい要素を付け加えたものである。なお、『暫定ハンドブック』の第5章では、6つのヴァージョンのあとに「拡張投入産出表」の導入を行なっている。
X−1 家計生産概念の拡大と市場評価の帰属環境費用
X−2 家計生産概念の拡大と維持費用の帰属環境費用
X−3 家計生産概念の拡大と市場評価と仮想市場評価による帰属環境費用
X−4 環境のサービス(土地の生産的サービスと処分サービス)の導入
X−5 環境のサービス(環境悪化による負の消費者サービス)の導入
X−6 内部的環境保護アクティヴィティーの外部化。
SEEAにおけるヴァージョンX−6の位置づけについては、ヴァージョンUについて述べたときにふれたとおり、別の方向もありえたであろう。すなわち、ヴァージョンX−6では、これまでのヴァージョンで投入面のみから識別されていたアンシラリー・アクティヴィティーとしての環境保護活動の産出をはじめて明示する。アンシラリー・アクティヴィティーの産出は、投入側から(中間消費+生産固定資産の使用+純生産税+被用者報酬として)推計する。ヴァージョンX−6のひとつの解釈は、『暫定ハンドブック』内のその位置から見ても「拡張投入産出表」を作成するために投入側と産出側のアンバランスを解消するという準備段階が必要であったというものであろう。ただし、環境保護関連以外のアンシラリー・アクティヴィティーは、投入側も産出側も依然として識別されない。