黄斑円孔手術体験記


森の日記―――書を捨てて森に入ろう


平成22年8月24日

 
上、前、下という分類が気に入ったので、今日は、頭を上げたり下げたりしながら歩いてみた。振り子散歩者ですね。

 森の境いめから前を覗くと、樹々の並んだ「冥さ」が見えて不思議な感じがする。そのまま進んでいくと、必ず蜘蛛の巣に出会ってはっとする。払い落とすのも気の毒だから、一生懸命かがんで、下を行き、振り返って蜘蛛の巣の無事を確認します。張るのも一仕事だったろうからね。

 足もとの方には、最近セミの死骸が転がっています。たった7日の命、でも何年もの土のなかの生活から、夢のような日々だったことでしょう。昆虫は、変態するときに、ほとんどすべての体が溶けてしまって、そこから新たな形態が成長してくるのだそうです。うらやましいような気もしますが、土のなかの虫だった時期の記憶も失ってしまうのでしょうか。輪廻転生のようですね。
         
 足もとにはまた、砂利にまじって小さな草が生えています。こちらは踏んでもいやがらないような気がします。最初からそのつもりだったのでしょうし、ぼくだって気持いい。点在するピンピンと跳ね上がった、ヒトデのように生えた草は、花火のような形をしています。花火と違って、さっと消えないところがいい。

 以前、竹はどうしても人工的な感じがすると書きましたが、それは竹が直線的、幾何学的だからかな、と思いました。というのも、今日、ちょっと変な竹を見つけました。遊歩道のために張ってあるロープを無視してはみ出して、一本の竹が、まるで人間の背骨のようにS字型にくねって生えていました。ロープを越えて生えてきて、「しまった」と逆戻りし、「やりすぎた」とまた上に向かって伸びていったかのようです。結構気を使う竹ですね。竹は森の背骨かな。


         

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