黄斑円孔手術体験記


森の日記―――書を捨てて森に入ろう


平成22年9月3日

 今日は仕事のことが頭から離れなくて、何も発見できなかった。締切が迫っているので、森に行く時間も早ければ、歩く速度も早くなる。何をしにいっているのやら・・・。とはいえ、森には不思議な呪力がある。おそらく人間は森のなかでは動物(未開人)に戻れる。体が勝手に、普通とはちょっと違った意味で、元気になる。原始宗教の入口? あぶないな。

 途中で登校途中の小学生や中学生たちに出会う。自分のその頃を思いだす。こどものときは何も知らなかったな、と思う。「こどものこころを持ち続ける」ことを勧めるひとがいるが、どんないいことがあるのだろう。人間になるのに必死で、動物になることなどできなかった。

 樹は、幹を伸ばし枝をつけ、多数の生命体の村を作り、他方で種子を風や鳥に運ばせて、つぎからつぎに新たな村を作っていく。なんだか人間のしてきたことに似ている。しかし、文明(帝国的属領化)は作らない。光と水と土地と空気を、暴力をもって独占しようとする植物はない。樹木と人間の違いは、大地に根をもっているか、大地から切り離された足をもっているかの違いである。死を知らないか、知っているかの違いである。植物は死なない。


         

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