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森の日記―――書を捨てて森に入ろう
平成22年8月6日
樹を見上げると、黒っぽい枝が、幹からつぎつぎに連なりながらくねくねと拡がっていてきれいだな、と思った。それから、ちょっと静脈に似ているなと思った。人体模型の静脈は、なるべく見たくないような気持悪さがある。同じような模様になっているのに、どうして樹だときれいだと思うのだろう。同じように水や栄養を運んでいるものである。もし、自分たちの体の血管の脈絡も、樹の枝とおなじようなものだと思うなら、美しいと感じられるのかもしれない。
もうひとつ。もし進化が生存競争であるならば、おなじ場所にはただひとつの色と形が生き残り、そればかりの均一な草木になるはずだ。でも、実際は、まったくおなじ場所に、いろんな色といろんな形が共存している。生態系のような全体として有機的に助けあっているとは思わない。互いが互いを利用したり、それが戦いだったり助け合いだったり、しかしそんな利用も競争も支えあいも、全部人間精神にとってあることで、植物たちは、ただ混成しているだけ、自然は異なるのが好き、ということではないかな、と思った。

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